中村 文則 - 去年の冬、きみと別れ

イメージ 1
発売日:2013年9月26日
発売元:幻冬舎
定価:1,365円(税込)

ライターの「僕」は、猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は、二人の女性を殺した容疑で死刑判決を受けていた。調べを進めるほど、事件の異様さにのみ込まれていく「僕」。彼はなぜ事件を起こしたのか? それは本当に殺人だったのか? 何かを隠し続ける被告、男の人生を破滅に導いてしまう被告の姉。それぞれの狂気が暴走し始める。

★今回はネタばれ気味なので本作を読むつもりの方は注意してください。

「僕は・・」と一人称で綴られる小説を読みはじめ3ページ目くらいで、これは昔よく読んでいた作家、折原一のパターンではないかと気がついた。最初にそこに気がついてしまうと「ふんふん、そう来たか」ってなもんで作者の意図が読めてしまい純粋に物語を楽しむことができなかった。いわゆる叙述トリックと呼ばれる手法で、小説という形式において書き手と読み手が暗黙の了解としている前提を利用したトリック。ただ本作はその部分の練り込みが弱くあまりに唐突な印象を受ける。また人形師の件(くだり)など書き切れていない不要な描写も煩わしい。最悪なのは最後のイニシャル、まったく意味不明。その部分を気にかけながら再読すればなんらかのヒントがあるのかもしれないが、再読するのは苦痛な小説。情報番組の「王様のブランチ」で紹介され反響を呼び、地元図書館でも本日現在の予約数が61件もあるが、そこまでの小説ではない。

おしまい