伊藤 計劃 - 虐殺器官

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虐殺器官 - 伊藤 計劃』
発売日:2010年2月10日
販売:早川書房
定価: 756円(税込)

9・11を経て、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。
米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?

この小説は好きなひとはハマりますね。サラエボイスラム原理主義者の手製核爆弾で消滅した後の世界で、アメリカの特殊工作員発展途上国で繰り返される殺戮の首謀者を暗殺する任務を遂行する。その装備は環境追随迷彩服や侵入用人工筋肉製鞘など初期のプレデダーを見ているようだ。虐殺や戦闘シーンの描写は人体損壊の様子がグロテスクかつ精緻に綴られるのでこの部分もマニアにはたまらないと思われる。
しかし、この小説は家族愛や地球規模の民族愛を論じるのである。虐殺の首謀者やシンパシーが語る精神論や理論は読んでいてもよく理解できないが、精神のベースとなる部分は感覚としてわかるので細かい薀蓄は読み飛ばしても小説世界を楽しむことができる。人類の虐殺器官を発見したジョン・ポールが何故虐殺を繰り返すのかが後半の読みどころであるが、それなりに説得力がありエピローグ以降も予想どおりの展開だが、それしかないだろうと思うので決して期待外れではない。著者は本作がデビュー作らしいが、若くしてこの文章を紡ぎ出せるのは陳腐だが天才と言うしかない。しかし著者は既に死者の列に加わってしまった。2009年3月肺がんで死去。享年34歳。