桐野夏生 - だから荒野

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『だから荒野』桐野 夏生
発売:2013年10月
定価:1,728円 (税込)

傲慢な夫や息子たちに軽んじられながら、家庭をささえてきた主婦・朋美は46歳の誕生日、ついに反旗をひるがえす。衝動にかられ夫の愛車で家出、「初恋の男が長崎にいるらしい」という理由で、長崎に向かって高速道を走り始めるのだった。奪われた愛車と女の連絡先の入ったゴルフバックばかり心配する夫を尻目に、朋美は自由を謳歌するが―― 

桐野夏生さんは2008年発行の「東京島」以来となるわけだが、「柔らかな頬」や「OUT」など欲望や業(ごう)の深さなど人間のダークサイドを描かせれば他を寄せ付けない女流作家だ。そんな作家が平凡な主婦の荒野を描く本作にはかなり期待し読み始めた。
夫の浩光は女房の朋美の全般に無関心で家事は一切行わず朋美に依存していながら、専業主婦で社会との繋がりが希薄な彼女を見下しバカにしている。中途半端な知識や思いつきをあたかも熟考した結果の正論のように強弁し家族を説き伏せることに腐心し、僥倖に備えコンドームをゴルフバッグにストックしている女好きな男だ。そんな夫に愛想を尽かし女房は荒野を目指す訳だが.....正義は夫にあると思う。(私は違うが)普通ですよね?(私は違うが)こんな夫は日本にごまんといますよね?家出した朋美は悪人に騙されたり善人に助けられたりして彷徨するわけだが、これが荒野だと言うのであれば日本人の半数は荒野の真っただ中にいることになるであろう。甘い甘いですね、桐野さんも齢を重ねダークサイドが脆弱になってしまったのかもしれない。でも文章が巧みですらすら読めるし情報番組でも紹介されている話題作なので、とりあえずお薦めしておきます。

おしまい